手網焙煎を振り返る

 6月のYouTube LIVEセミナー『おうちで焙煎をするには』をご視聴いただいた方々、ありがとうございました!(見逃した!という方は↓からご覧いただけます!)


 前回の手網焙煎を始めたというブログから約一ヶ月間、 おうちで誰でも気軽に楽しく焙煎をできるようにということで、【エルサルバドル ロス・ピリネオス農園 50g】に焦点を当てて焙煎を重ね、LIVEセミナーに向けて調整をしていきました。

 手網焙煎をやってみてまず感じたのが、再現性の低さでした。まずはどこで焙煎をするのか。キッチンなのか、はたまたベランダなのか。ベランダや外の場合は煙は気になりませんが、風によって火力に影響が出てきます。(ご近所迷惑にならないかも気をつけましょう!ただ、火を使うので万が一を考えて、水があるところでやるのをお勧めします。)あとはカセットコンロの火力の幅。カセットコンロそれぞれの火力の差によっても違いが出てきますし、いつも使っているコンロでも、つまみの遊び部分によって火力の微妙な差を感じました。(使うコンロの火力をよく知ることが大事です!)あとはガスボンベの残量。満タンのものを使うのか、残り少ない量で焙煎を進めるのか。これも火力に大きな影響がありました。残り少ない状態だと火力は弱くなるので注意です。
 できるだけ全ての環境条件を一緒にすることが、まず第一の手網焙煎を上手く進めるポイントのひとつだと思います。
 今回は、お店の作業台で、ガスコンロの中火(毎回同じ目盛りの部分に合わせて)、ガスボンベはできるだけ入っているものを使うという環境条件を毎回揃えることで、火力調整は火からの距離と時間と振り方、この3つのポイントで焙煎を進めるという型に持っていくことになりました。

 まず、改めて『焙煎』とは、生豆に熱を加え水分を飛ばしながら乾燥させていくことで香味成分が生成され、所謂あの茶色いコーヒー豆らしいコーヒーにしていくわけなのですが、その熱源にも色々と種類があるわけで、手網の場合は直接火が下から当てられるので直火式となります。他には熱風による対流熱を与えて焙煎していく熱風式や、カフェテナンゴの焙煎機のように、熱せられた鉄板のドラム内から伝わる伝導熱と、排気によって流れる熱風で与えられる対流熱、温まった生豆同士やドラムからの赤外輻射による熱などが加えられる半熱風式などがあります。
 熱の加え方はこのように様々ですが、焙煎の流れとしては変わらないので、普段焙煎機で行っている焙煎の流れを手網焙煎に置き換えてみました。


 最初に言ってしまうと、焙煎による良い香味形成のバランスを考えると、時間は短すぎても長すぎてもあまり良い傾向にはならない気がしました。〝時間が短い焙煎〟ということは、ずっと強い火力を使うということになります。そうなると、表面だけ焼けていってしまいます。熱というのは水分を通して伝わるものなので、先に表面だけが焼けて乾燥してしまうと、生豆の中まで熱が伝わらず、水分がきちんと抜けないまま終わりを迎えてしまうので、極端に言うと半生状態でしょうか。中まで火が足りていないので、とても渋い味わいになります。逆に〝時間が長い焙煎〟というのは、ずっと弱い火力でじわじわ火を入れていくということになります。じっくりと表面から乾燥させて水分が抜けていくように感じるので良さそうにも思えますが、時間は長ければ長くなるほど形成された香味が抜けていき、ぼやけた味わいになります。また、ポイントできちんと強い火を使っていないので火力不足にも陥ります。焙煎は火力と時間のバランスがとても大事なのです。
 
 なので、まずは予熱、準備運動のようなものでしょうか。初期火力はしっかり与えます。これが上のホワイトボードの写真でいう(強:20cm)のところです。
 そして、1分おきに豆の様子を見るのですが、2分のところで最初の色みの変化が出てくるので(少し黄緑色っぽくなり、チャフが出てくる)、予熱が入ったという判断で、(弱:25cm)に離し、今度はじっくりと水分を抜いて乾燥させていきます。ここから豆の変化の様子をきちんと捉えるのがポイントです。徐々にピーナツ色から茶色になり、濃い茶色からこげ茶になっていくと同時に、香りも青臭い臭いから甘い香りへと変化していきます。
 ここでポイントなのが、そのあとで迎える、〝ハゼ〟という現象です。「爆ぜる」と書くように、コーヒー豆内部で発生したガスや水蒸気が圧力に耐えられずに爆発する現象で、パチパチという音を鳴らしながら爆ぜます。最初に鳴り始める「パチッ、パチッ」という大きめの音が〝1ハゼ〟と呼ばれ、そのあと1ハゼが収まったあとに「ピチピチ」と高めに聞こえてくる連続音が〝2ハゼ〟と呼ばれます。
 このハゼ前後で香味形成の化学変化が活発に起こります。なので、ハゼへと持っていくひとつのきっかけとして、ここでは水分が抜け、色が変わり、1ハゼの準備が整った状態になる頃の8分で(強:20cm)にすることで強い火力をきちんと与えるということにしています。ここまででしっかりと熱を蓄えられていれば、火力を強くしてから1分〜1分半程で1ハゼを迎え、1ハゼ後2〜3分くらいで2ハゼを迎えます。
 ハゼ前後の香味形成の化学変化としては、1ハゼ前辺りから1ハゼの鳴り終わり辺りまでで酸味や香りが成分同士の結合によって形成され、それ以降は2ハゼに向かって熱分解によって酸味成分は現象し、今度は逆に苦味が増えていきます。
 今回は苦味と酸味のバランスのとれた、中煎りのシティローストをゴール設定にしたので、2ハゼが少し鳴ったところを煎り止めとしました。
 1ハゼと2ハゼがくる時間が早いか遅いかは、それまでに豆に与えられてきた熱量が足りているか足りていないかが関係していると考えていて、きちんと豆内部に熱が溜まっていればスムーズにハゼは進みますし、足りなければ1ハゼ、2ハゼまでの時間は間延びする傾向にあると思います。
 ハゼ前後は香味が形成される化学変化においてとても重要な時間なので、1ハゼ2ハゼの間隔を火力でコントロールすることで、出したい香味や味の仕上がりのバランスを取ることも可能です。
 ただ、今回やってみて、この部分が手網ではとても不安定な部分だと感じていて、同じように焙煎を進めても2ハゼがスムーズに来たり来なかったりというバッチが何回もありました。手網焙煎の場合は焼き手の振り方も大きく影響するので。。。
 
 このプロファイルで綺麗な味わいに焼きあがったバッチもあれば、正直火力不足になってしまったこともありました。1ヶ月という短い時間で調整をしたプロファイルだったので、まだまだ改良の余地を感じています。手網である以上感覚での焙煎ではありますが、失敗のリスクを少しでも減らしたいですし、毎回美味しい安定した焼き上がりにしたいので、LIVEセミナーにて発足しました、『深沢手網焙煎組合』として今後も手網活動をしていきたいと思います!笑

 おうちで手網にチャレンジする場合は、火力と時間のバランスに気をつけつつ、豆の色と香りの変化をとにかく楽しんで焙煎してみてください!やるのは正直簡単です。自分で焼いたコーヒーはそれだけで美味しさ倍増です。それだけでも良いんです。焼きあがったコーヒーをすぐに飲める特権もあります。ペーパードリップの場合は挽いた粉にお湯をかけた瞬間、面白いくらいにとっても膨らみます。私は初めて自分で焼いたコーヒーを今でも覚えています。自分が焼いたというだけで我が子のように愛着がわき、毎回飲むのが楽しかったです。
 でも突き詰めればとても難しいです。だから面白いのかもしれないですね。

〜最後に〜


 先日、ロス・ピリネオス農園主のバラオナさんの突然の訃報を聞きました。ロス・ピリネオスはちょうど手網焙煎の豆として向き合っていた豆だったのでびっくりしました。店主からは、良いブルボン種はパカマラに似た風味がすることがあると以前から聞いていて、昨年のエルサルバドルCOEのカッピングをした際、2位入賞したピリネオスのブルボンからパカマラの風味を感じた時は、これか!という衝撃を受けたのを鮮明に覚えています。カフェテナンゴで現在扱っている通常ロットのブルボンも甘いフルーツととても濃厚な口当たりが心地よい、大好きなコーヒーのうちのひとつです。美味しいコーヒーを作り続けてくれたように、私は焙煎することでピリネオスの美味しい部分をしっかりと引き出し、皆さんに飲んでもらえるように頑張っていきたいと思いました。

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